掲載日:2022年3月23日


読書は選ぶところから始まっています。
読みのプロでもある著作家の豊かな選書をお楽しみください。
本フェアは2022年5月8日まで神保町本店1階で開催しております。
神保町本店は2022年5月8日で一時閉店いたしますが
これからも、本というバトンをつなぎ続けます!
(選者の方は順不同で敬称は省略させて頂いております。)

「おおあんこう」 加賀翔著
選者:又吉直樹
個性的な父親に振りまわされる少年の感情が丁寧に描かれていた。自由に振る舞う父親の言動には緊張も笑いもあるが、芸人を志すことになった少年の、「つらかったことも、すべて笑いにするのだ」という強い覚悟を感じた。作中人物の少年と作者の想いが必ずしも一致するとは限らないが、この小説もかが屋のコントも、少年の覚悟と繋がるように感じた。

「むき出し」 兼近大樹著
選者:又吉直樹
芸人として活躍する兼近大樹が、自分自身とかなり似た人生を歩んできた主人公を物語の中心に置いた。私自身ネットニュースで読んだ情報でなにかを理解したように錯覚してしまうことがあるが、それらは本質の目次でしかない。実際にどのような経緯があり、そこで人間がなにを感じ考えたのか。フィクションだからこそ真実に触れられる瞬間もあると気付かされた。

「奈良へ」 大山海著
選者:又吉直樹
複雑な日常を安易に単純化し表現することを選択しない作風がとても好きだった。生活のノイズを引きずった人間と静かな寺社という取り合わせも面白かった。物語の構造や細かい描写の一つ一つが刺激的だった。

「東京の生活史」 岸政彦著
選者:又吉直樹
まだ最後まで読み終えてない本を紹介するのははじめて。年齢も生活する環境も異なる人達の声を聞けることが嬉しい。150人の語り手だけではなく、150人の聞き手がいかに重要であるかがよく理解できた。突然誰かに質問しても中々このようには話してはくれない。人の生活を覗く。本がずっとやってきたことであるはずなのに、とても新しく感じている。

「夜が明ける」 西加奈子著
選者:又吉直樹
目を背けてはいけない大切なことと正面から向き合い言葉が紡がれていた。自分自身、読みながら反省する箇所もあった。この小説に書かれた純粋な言葉が真っ直ぐ自分にぶつかった。痛い言葉なら避けることもできたはずだが、作者が背後に苦しんでいる人や苦しんではいけないと思っている人を背負い、泣きながら投じた言葉のように感じたので受け止めなければと思った。

「ロ-マ帽子の秘密」 エラリー・クイ-ン
選者:魔夜峰央
初めてのミステリー
それまでも少年探偵団とか ルパン ホームズとか少年少女向けのものは読んでましたが 中学二年生の時 始めて読んだ大人のミステリーデス。

「機械/春は馬車に乗って」 横光利一著
選者:宮内悠介
嘘みたいだけど昭和6年作
読むべきは「機械」でも「春馬車」でもない。いやその、どちらも面白いんですけど、断然、これに収録されている「時間」です。「時間」を、「時間」をぜひ読んでみてください。一言で言うなら、大真面目に書かれたコント。でも文学。意味わかんないと思うんですけど私も意味がわからない! 傑作ですのでここはひとつ騙されたと思って。

「地下室の手記」 フョ-ドル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー著
選者:宮内悠介
ぶっちゃけ一番好きな作家
「ドストがどうしても苦手!」ってかたはどうかいま一度。なんでしたら、島本和彦さんの絵とかを思い浮かべながら読んでみてください。実はすごく笑える話なのがわかります。それもそのはず、実はこれ某ロシア文学のパロディでもあって、ミステリで言うなら東野圭吾『名探偵の掟』みたいな側面もあるのでした。

「コージーボーイズ、あるいは消えた居酒屋の謎」 笛吹太郎著
選者:宮内悠介
直近デビューからひとつ
肩肘はらない謎解きが楽しめます。ぜひ、のんびり紅茶でも飲みながら。でも、もちろんそれだけじゃない。囲碁で言うなら「手筋辞典」みたいな側面があるのでした。つまり、さまざまな着手の妙が見られるということ。著者は実のところ後輩でもあるんですけど、つまんないと思ったら推薦しないです。

「叫びと祈り」 梓崎優著
選者:宮内悠介
私にとっての転換点
私のデビュー前の作。こうした海外各地を舞台にした連作を書こうとしていたので、読んだときの衝撃たるや。しかもめっぽう面白い! 収録作から特にひとつ選ぶなら、ちょうど中間に置かれた「凍れるルーシー」を。そしてある意味、この本が地ならしをしてくれたことで、その後の私の著作にもつながっていくのでした。いろいろな意味で忘れられない一作です。

「幻詩狩り」 川又千秋著
選者:宮内悠介
復刊感謝の正拳突き
『HUNTER×HUNTER』に出てきた「演奏しちゃいけない音楽」を思い出してみてください。そいつを詩に置き換えてください。そして、その詩をめぐる人々の話を想像してみてください。それです。誰もが一度は挑戦してみたいテーマ。でも、なんだかんだ難しくて書けないやつ。しかもこの本、問題となる詩が本当に作中に書いてあるんですよ。あとはわかりますね。これを持ってレジへ。

「中原中也全詩集」 中原中也著
選者:宮城谷昌光
大学生としての二年間は中也の詩と文とともに生きていたという記憶である。人が文学的に純粋に生きるとはどういうことなのかを中也から学んだ。かれの純粋さは時代をつらぬいている。

「孟子 上」 孟子著
選者:宮城谷昌光
中国の古典の倫理書で、これほど益のあるものはない。失望や挫折から人を立ち直らせてくれる力をもっている。人ができないのは、けっきょくやらないからである、とわかりやすく説いてくれている。

「孟子 下」 孟子著
選者:宮城谷昌光
中国の古典の倫理書で、これほど益のあるものはない。失望や挫折から人を立ち直らせてくれる力をもっている。人ができないのは、けっきょくやらないからである、とわかりやすく説いてくれている。

「新史太閤記 上」 司馬遼太郎著
選者:宮城谷昌光
司馬さんがお書きになった歴史小説のなかで、もっともふくよかである。むずかしい主人に仕えた秀吉の玄人喜びの裏にある、乱世を生きる悲しみに気づくと、さらに愛着が強まる座右の書。

「新史太閤記 下」 司馬遼太郎著
選者:宮城谷昌光
司馬さんがお書きになった歴史小説のなかで、もっともふくよかである。むずかしい主人に仕えた秀吉の玄人喜びの裏にある、乱世を生きる悲しみに気づくと、さらに愛着が強まる座右の書。

「ポ-名作集」 エドガ-・アラン・ポ-著
選者:宮城谷昌光
海賊が残した財宝を捜す小説だが、そういう謎解きのおもしろさの下に、小説をどのように構成し、公正と共鳴する語句をどのようにはいちするべきかを教えてくれる小説である。

「即興詩人」 ハンス・クリスチャン・アンデルセン著
選者:宮城谷昌光
恋愛を小説化すると、その昇華が死という虚無にいきつくものが多い。しかしながら、この小説ほど幸せにみちた結末をもつものを知らない。恋愛小説の最高傑作であるといってよい。

「最愛の子ども」 松浦理英子著
選者:三宅香帆
本を読んでいると、たまに、本当にたまに「自分がここにいる!」と思うことがあります。私にとっては、この本が「自分がいる」一冊でした。いつだって憂鬱で、自分を持て余していて、でも頑張らなくては生きていけないと思っているすべての人に読んでほしいな。

「優雅な読書が最高の復讐である」 山崎まどか著
選者:三宅香帆
いい書評の条件は、とにもかくにも紹介されている本が読みたくなること、だと思うのです。山崎さんの書評は、いつもいい香りがして、本に手を伸ばしたくなる。読むとあなたの知らない宝石のような本に、きっと一冊は出会えるはず。

「苺をつぶしながら」 田辺聖子著
選者:三宅香帆
いい小説を読むと、なんだか世界が素敵に見えてきます。田辺聖子さんの小説を読むといつも「現実ってもっと素敵な場所なのでは?」と思う。恋多き仕事人、田辺ワールドをたっぷり味わってください。

「TVピ-プル」 村上春樹著
選者:三宅香帆
私のベストオブ村上春樹は、この短編集に入っている「眠り」です! 眠れなくなる主婦の話。村上春樹って世間に誤解されているのでは、と読み返すたびに勝手に心配してしまう、珠玉の小説。

「石の繭」 麻見和史著
選者:宮部みゆき
ドラマを見てその面白さにびっくり! 遅まきながら、シリーズの既刊本を追いかけて愛読中です。捜査小説の硬派な味わいとトリッキーな謎解きが絶妙にブレンドされており、生真面目で働き者の主人公・女性刑事の如月塔子を応援しつつ、毎作どきどきハラハラしています。

「エヴリシング・フロウズ」 津村記久子著
選者:宮部みゆき
青春小説の傑作で、読み返すたびに笑って泣いて癒やされて、明日への元気をもらいます。ところどころで出てくる巻き寿司が、細かく書いてあるわけではないのに、とっても美味しそうでたまらないのですよ。

「彼女は頭が悪いから」 姫野カオルコ著
選者:宮部みゆき
実際に起きた事件にインスパイアされた作品ですが、現実の事件の真相や裏側がどうかということではなく、フィクションでしか書けない真実が紡ぎ出された小説です。何度読み返しても、終盤の「日傘をさしかけてもらう」シーンで胸がつまります。

「ヨルとネル」 施川ユウキ著
選者:宮部みゆき
本好きあるあるコミック『バーナード嬢曰く。』の作者のSFコミックです。初読のとき、まぶたが腫れるほど泣きました。施川さんは天才だと思っています。シンプルで可愛らしい絵で、深遠で普遍的な物語を余すところなく語れる作家です。『オンノジ』も『銀河の死なない子供たちへ』も素晴らしい。

「嘘の木」 フランシス・ハーディング著
選者:宮部みゆき
児童文学ですが、大人も読まなくてはもったいない! ファンタジー要素は、人間の嘘を養分にして育つ「嘘の木」という架空の植物だけで、あとは切なく苦しいほどリアルな人間社会と、そのなかで逆風に負けず成長してゆく少女の物語です。

「夜の声」 スティーヴン・ミルハウザー著
選者:村田沙也加
人間のある部分が初めて言語化されている感覚があり、自分の無意識の部分が強く反応してざわざわします。不思議で新しい物語と言葉なのに、それがとても懐かしいという、未知の感覚を与えてくれる作品たちを大切に思っています。

「私のカトリック少女時代」メアリ・マカーシー著
選者:村田沙也加
この回想記の、「記憶」の不確かさへの誠実さが、とても好きです。少女の観察眼が、他者だけではなく、自己の内側にも容赦なく向けられていることに、打ちのめされます。その鋭い眼差しと分析を、美しい刃物のように感じています。

「最愛の子ども」
選者:村田沙也加
私の中の少女だった私が、そして今の私も、この本の存在に救われています。深層心理心の底で一番大切にしていることを、壊さずに美しく物語の中に存在させ、その上で丁寧に解体してくれるような、本当に大切な一冊です。

「人間そっくり」 安部公房著
選者:村田沙也加
この小説を読んでいるときに起きる、「わからなくなっていく」感覚がとても好きです。「わかっている」ことより、「わからなくなる」ことのことのほうを信じているからかもしれません。

「掃除婦のための手引き書」 ルシア・ベルリン著
選者:村田沙也加
大学生のころ、事実をモチーフに小説を書くことに憧れ、しかし私には一生無理だと思いました。それには、強靭な眼差しと事実を冷静に切り取る特別なナイフが必要だと感じたからです。この小説は、そんな私の拙い想像を鮮やかに飛び越えていました。

「冷たい校舎の時は止まる 上」 辻村深月著
選者:森野萌
学校に閉じ込められた少年少女、ひとりずつ消える恐怖、どうしても思い出せない自殺した誰か、ミステリーもホラーも青春も私の好きなもの全部入った一冊で、いつか自分がコミカライズしてみたいと夢見たほど大好きな作品です。

「冷たい校舎の時は止まる 下」 辻村深月著
選者:森野萌
学校に閉じ込められた少年少女、ひとりずつ消える恐怖、どうしても思い出せない自殺した誰か、ミステリーもホラーも青春も私の好きなもの全部入った一冊で、いつか自分がコミカライズしてみたいと夢見たほど大好きな作品です。

「シャドウ」 道尾秀介著
選者:森野萌
真相が気になって原稿を放って読み進めてしまいました(編集さんごめんなさい)。色々予測しながら読みましたが全部間違えてました。ずっとどんよりとした雰囲気なのになぜかさくさく読み進められ読後は爽やかな気持ちになれます。

「Under the Rose 1」 船戸明里著
選者:森野萌
イギリス貴族のお屋敷の中で男も女も老いも若きも庶子も嫡子も、愛、希望、絶望、執着、狂気、とにかく情念という情念が渦巻いてます。同じキャラのエピソードでいい話もあれば怖い話もありますがそこが人間って感じで最高です。

「ライオンと魔女と衣装だんす ナルニア国物語2」 C.S.ルイス著
選者:森野萌
ナルニア国物語は子供の頃何十回と読みました。普通の子供たちが異世界にとばされ英雄になり王や女王になる…ある意味異世界転生系でしょうか。言葉を話す動物や食べ物や、世界観にすごくわくわくしました。冒険好きのお子さんがいる方におすすめです。

「ム-ミンパパ海へいく」 ト-ベ・ヤンソン著
選者:森見登美彦
最近お気に入りの不思議な物語
子どもの頃からムーミンは好きでしたが、今作は読んでいませんでした。最近、初めて手に取って衝撃を受けました。こんな物語だったとは!

「恐怖」 アーサー・マッケン著
選者:森見登美彦
最近お気に入りの不思議な物語
本書に収められている「生活の欠片」という小説が好きです。何の話だかよく分からないのに、何度も読んでも飽きません。なんだろうこれは。

「銀の仮面」 ヒュー・ウォルポール著
選者:森見登美彦
最近お気に入りの不思議な物語
なんとも言えない淋しさと、それを包みこむ優しさに心惹かれます。ウォルポールさんは孤独な人だったんだろうか。とくに「小さな幽霊」が気に入っています。