掲載日:2022年3月15日
読書は選ぶところから始まっています。
読みのプロでもある著作家の豊かな選書をお楽しみください。
本フェアは2022年5月8日まで神保町本店1階で開催しております。
神保町本店は2022年5月8日で一時閉店いたしますが
これからも、本というバトンをつなぎ続けます!
(選者の方は順不同で敬称は省略させて頂いております。)
「ルーティーンズ」 長嶋有著
選者:伊坂幸太郎
最近読んで面白かった小説
派手な出来事は何も起きないのに、その何も起きないことが愛しく感じられる小説でした。このゆったりした雰囲気に癒される自分がいます。読んでいたら、不意に、僕の小説の登場人物の名前が出てきて驚きましたが、この小説の中に参加できた気がして嬉しかったです。
「不村家奇譚」 藤アザミ著
選者:伊坂幸太郎
最近読んで面白かった小説
恐ろしくも悲しい、不思議なお話でした。はっとさせられる文章も多く、濃厚な世界でありつつも、くどくないところも素晴らしいと思います。
「マザー・マーダー」 矢樹純著
選者:伊坂幸太郎
最近読んで面白かった小説
モンスターペアレンツもの? サスペンス? と思いながら読み進めていたのですが作品の出口は思いもしない場所でした。どの短編もひねりがある上に、バリエーションも豊富で、ある短編では、「え、おまえが探偵役なの?」と興奮させられましたし、それぞれの作品の絡み具合にも工夫があって、面白かったです。救いのある話とはとうてい言えないため、そういうのが苦手な人におすすめできないのですが、大丈夫なひとにはおすすめです!
「焼跡のイエス/善財」 石川淳著
選者:逢坂剛
谷崎、荷風とともに、日本語を自家薬籠中のものにした大作家。何を読んでもその精神の躍動にひれ伏すのみ!
「ナチを欺いた死体」 ベン・マッキンタイアー著
選者:逢坂剛
まるでスパイ小説そのものの、第二次戦中の英国の欺瞞作戦の全貌。
「マルタの鷹」 ダシ-ル・ハメット著
選者:逢坂剛
あらゆる文学を含めて、登場人物の心理描写をいっさいせずに、その人物の性向を活写した最初の小説。
「ガラスの鍵」 ダシ-ル・ハメット著
選者:逢坂剛
『マルタの鷹』をさらに徹底化した高度の客観小説。
「逝きし世の面影」 渡辺京二著
選者:逢坂剛
江戸時代後期に来日した外国人の目に、当時の日本と日本人がどう映ったかを詳説した名著。
「月の客」 山下澄人著
選者:大森静佳
文体に衝撃を受けた小説
どの犬にも「いぬ」と名づけて一緒に生きてゆく少年の、現代の神話。「。」で終わることなく延々と続く文体に酔いしれながら、この世について、生について、思索の沼に引きずりこまれる。
「白夜を旅する人々」 三浦哲郎著
選者:大森静佳
「書くこと」へ導いてくれた一冊
昭和初期の青森、ある一家のめくるめく運命が、作家自身の兄姉に対する鎮魂の思いとともに綴られる。高校生のころに出会って以来、「私も何かを書きたい」「物語りたい」という思いの底につねにある熾火のような存在の小説。雪深い北の大地への憧れもやまない。
「心は孤独な狩人」 カーソン・マッカラーズ著
選者:大森静佳
何度でも読み返したい長篇
主人公の少女ミックがラジオから流れてきたベートーベンの音楽に出会うくだりの美しさに圧倒される。絶望と希望の入り混じった現実をまるごと抱きしめるような筆致。詩の一節からとられたというタイトルも忘れがたい。
「雨をよぶ灯台」 マーサ・ナカムラ著
選者:大森静佳
愛読の詩集
現実の具体と土俗世界の抽象が混ざりあった、不思議な読後感。読み進めるうちに「自分」というものが溶けて消えてしまうような、詩を読むことの冷え冷えとした愉悦がここにはある。
「ソビエト・ミルク」 ノラ・イクステナ著
選者:大森静佳
歳月の熱量を感じる一冊
旧ソ連政権下のラトヴィアを舞台に、一人称「私」を母と娘がリレーしながら紡ぐ力強い物語。「女性であること」の喘鳴と「歴史」のうねりが混然となって、読者の胸ぐらをつかんでくる。
「基礎日本語辞典」 森田良行著
選者:岡野大嗣
知っているつもりの平明な言葉が持つ多彩なニュアンスを教えてくれる。短歌の言葉選びに重宝しています。
「百年と一日」 柴崎友香著
選者:岡野大嗣
自分の「今・ここ」が見知らぬ誰かの「いつか・どこか」とつながっている/いく。その当たり前の不思議さ。
「KOBE BRYANT THE MAMBA MENTALITY HOW I PL」 コービー・ブライアント他著
選者:岡野大嗣
努力に対する凄まじい執念。その知的で分析的で創造的な頭の中身がまるごと一冊に。まるで武道書のよう。
「地上絵」 橋爪志保著
選者:岡野大嗣
うれしいとさびしいが一緒にきたり、怖いを綺麗と思ったり。喜怒哀楽に分類できない感情の展覧会のような歌たち。
「サワーマッシュ」 谷川由里子著
選者:岡野大嗣
初めて聴く新譜のどの曲も良いときの高揚のような、読み進めるほどに、出会えた喜びに満たされていく一冊。
「hibi」 八上桐子著
選者:岡野大嗣
心がざわついて眠れない夜に。ほの甘いドロップのような句を頬に含んでいるうちに、夢が迎えにきてくれる。
「ギタ-・ポップ・ディフィニティヴ1955-2015」 岡村詩野監修
選者:岡野大嗣
本書を片手にサブスクへ、まだ見ぬ名曲と出会いにいこう。同シリーズの他ジャンルのガイド本もおすすめ。
「緑の家 上」 マリオ・バルガス・リョサ著
選者:小山田浩子
食べものが気になる本
初めて読んだラテンアメリカ文学で、面白さもさることながら、登場する食べ物の身近でなさに感じ入ったのを覚えている。泣くほど強い砂糖きび酒、ルクマのジュースにチチャ酒、ひょうたんの器に入ったどろりとした(なんのかは書いていない)スープ…
「緑の家 下」 マリオ・バルガス・リョサ著
選者:小山田浩子
食べものが気になる本
初めて読んだラテンアメリカ文学で、面白さもさることながら、登場する食べ物の身近でなさに感じ入ったのを覚えている。泣くほど強い砂糖きび酒、ルクマのジュースにチチャ酒、ひょうたんの器に入ったどろりとした(なんのかは書いていない)スープ…
「きょうの肴なに食べよう?」 クォン・ヨソン著
選者:小山田浩子
食べものが気になる本
韓国料理は日本でも人気だが、まだまだ知らない食材や料理法があるのだ…と感動した。次に韓国へ行く機会があったら絶対本書を読み返し食べたいものリストを作る。
「未闘病記」 笙野頼子著
選者:小山田浩子
食べものが気になる本
筆者が長年作品に描いてきた生きづらさ、身体の不調が実は難病の症状だったという発見から始まる。治療、投薬、不安の中にありながらも時折訪れる平和な時間に筆者が作り食べる料理の描写に心震える。
「海と山のオムレツ」 カルミネ・アバーテ著
選者:小山田浩子
食べものが気になる本
子供のころからの食べ物と家族の記憶が語られる自伝的短篇小説集。魚介や肉や唐辛子で作る保存食、パスタ、果物、海の風、山の匂い、読むだけで猛然と食欲が刺激される。
「たのしい暮しの断片」 金井美恵子・金井久美子著
選者:小山田浩子
食べものが気になる本
長年作ってきた料理、漬物、食卓や台所で使う道具、日々の生活ともちろん猫についてのエッセイ集。引用と記憶が連なって書かれる文章を読み、絵を見ているとつくづく楽しい。
「チベット旅行記 上」 河口慧海著
選者:角幡唯介
もっとも激烈な日本人の本
世界史レベルの探検をした日本人は後にも先にも河口慧海ただひとりである。
「チベット旅行記 下」 河口慧海著
選者:角幡唯介
もっとも激烈な日本人の本
世界史レベルの探検をした日本人は後にも先にも河口慧海ただひとりである。
「心臓を貫かれて 上」 マイケル・ギルモア著
選者:角幡唯介
もっとも衝撃的なノンフィクション
あまりの凄まじい内容に学生のときに呆然とした。ただ、衝撃的だったということだけおぼえていて、内容はほとんど忘れてしまったので、そろそろ再読しようと思っている。
「心臓を貫かれて 下」 マイケル・ギルモア著
選者:角幡唯介
もっとも衝撃的なノンフィクション
あまりの凄まじい内容に学生のときに呆然とした。ただ、衝撃的だったということだけおぼえていて、内容はほとんど忘れてしまったので、そろそろ再読しようと思っている。
「越境」 コ-マック・マッカ-シ-著
選者:角幡唯介
もっともかっこいいと思った小説
未知への世界の旅をこれほど美しく描いた本はほかにない。
「タコの心身問題」 ピーター・ゴドフリー=スミス著
選者:角幡唯介
もっとも神秘的な生き物の本
ウナギも不思議だがタコはもっと不思議だ。知られざるタコの生態も驚愕だが、文学的な文章がすばらしい。
「ねこはい」 南伸坊著
選者:川上弘美
いろいろ、行きづまった気持ちになった時に読む本
ねこが作った俳句の本。ほんとうは南伸坊さんが作った俳句なので、ねこにしてはうますぎるのだけれど、ねこはこのくらいうまい俳句を作る気もします。
「ここはとても速い川」 井戸川射子著
選者:川上弘美
いろいろ、行きづまった気持ちになった時に読む本
少年の目を通し見た世界を、何も足さず何も引かず描ききった小説。作者は少年ではないのになあ。小説を書きあぐねている時に読んで、自分もすぐにまた小説を書きたくなりました。
「ジュリアン・バトラーの真実の生涯」 川本直著
選者:川上弘美
いろいろ、行きづまった気持ちになった時に読む本
架空の作家ジュリアン・バトラーの生涯についての、これも「物語」の歓びに満ちた小説。世の中のあれこれを嘆いていた時に読んで、心がすーっと平穏になった本。
「往復書簡限界から始まる」 上野千鶴子・鈴木涼美著
選者:川上弘美
いろいろ、行きづまった気持ちになった時に読む本
日本で女に生まれて生きる、ということについての往復書簡。いつわらない二人の言葉に、少し泣きました。
「ホテル・アルカディア」 石川宗生著
選者:川上弘美
いろいろ、行きづまった気持ちになった時に読む本
徹頭徹尾「物語」を書いた小説。しかも、その「物語」は、何かの役に立ったりしません。去年の緊急事態宣言の時に読んで、心がすーっと平穏になった本。
「狂うひと」 梯久美子著
選者:川野芽生
女性が書くこと/書かれること
みずからも創作者であった女性・ミホが、小説家・島尾敏雄の「狂気の」妻として、「書かれる」存在に押し込められていったことへの異議申し立ての書。小説家とその妻の関係に、男/女、書く人/書かれる人、本土/島、近代/前近代など、幾重もの権力関係が重なり、書くこと/書かれることという権力闘争が浮かび上がる。
「世界文学全集2-01 灯台へ/サルガッソーの広い海」池澤夏樹編
選者:川野芽生
女性が書くこと/書かれること
『ジェーン・エア』を「狂気の」妻・バーサの視点から語り直した小説。はっきりとした声を持ったこの女性が、言葉を、人格を、自由を取り上げられ、あのバーサにさせられていくのかと思うと、冒頭から悲しくて仕方がない。
「幻想の重量」 川野里子著
選者:川野芽生
女性が書くこと/書かれること
「幻視の女王」と呼ばれた歌人・葛原妙子の評伝が待望の復刊。「女」に求める短歌とは何か、好き勝手言う男たちとまっすぐに切り結びながら、「女」であることを見つめ、自身の表現を切り開いた葛原の歌は私たちの希望だ。
「私のいない部屋」 レベッカ・ソルニット著
選者:川野芽生
女性が書くこと/書かれること
「美しい女の死はこの世でもっとも詩的な主題である」(エドガー・アラン・ポー)。そんな呪縛に抗って、死なずに生き延び、詩に書かれるのではなく詩を書くことが、それ自体ひとつの戦いなのです。
「ヒロインズ」 ケイト・ザンブレノ
選者:川野芽生
女性が書くこと/書かれること
「(ゼルダの小説が出版されたとき)彼(スコット)が本当に感じていた危機とは何だったのか。おそらくゼルダは(男性の)創作者の特権とされていたものを、侵害してしまったのだ。他者の人生を吸血鬼のように奪いとり、それを純粋な創作だと主張する特権を。」男性作家の「ミューズ」役に押し込められ、言葉を取り上げられ、そして精神病院に閉じ込められた、モダニズム作家の「狂気の」妻や愛人たちを憑依させるようにして書かれた長大なエッセイ。
「ヌマヌマ」 ミハイル・シーシキン著
選者:岸本佐知子
存在すべてがかっこいい本
このタイトルとこの装幀、一秒で優勝です。もちろんセレクションも翻訳も安心と信頼の両沼野さん。
「十二神将変」 塚本邦雄著
選者:岸本佐知子
存在すべてがかっこいい本
ずっとずっと念願だった本がついに復刊されて、畏れ多くも帯文まで書かせていただきました。ここに書いたとおりです。日本人全員読んでほしい!
「アフター・クロード」 アイリス・オーウェンス著
選者:岸本佐知子
存在すべてがかっこいい本
「捨ててやった、クロードを。あのフランス人のドブネズミ」。今年度いちばんしびれた書き出しです。
「青と緑 ヴァージニア・ウルフ短篇集」 ヴァージニア・ウルフ
選者:岸本佐知子
存在すべてがかっこいい本
私の初ウルフは何を隠そう西崎憲さん訳の短編でした。表紙を見ただけで、その時の心臓の高鳴りがよみがえります。
「アーサー・マンデヴィルの不合理な冒険」 宮田珠己著 網代幸介画
選者:岸本佐知子
存在すべてがかっこいい本
面白旅エッセイの名手・宮田さんの初小説。見てくださいこの素晴らしい造本……『ミッドサマー』など、美しい映画パンフレットを多く手掛ける大島衣提亜さんの名前に深く納得。
「畏れ入谷の彼女の柘榴」 舞城王太郎著
選者:木下龍也
坂道を全力で駆け下りる身体の速さに足がもつれてダダダダダって転がっていろんなところに怪我もするけどアドレナリン出てるから全然大丈夫っす監督おれまだやれますもっと転がらせてください、みたいな感覚を味わうことができる小説です。
「向日葵の咲かない夏」 道尾秀介著
選者:木下龍也
種明かしの部分を開いたとき、自分の目がなぞる文字列を、自分の脳に注ぎ込まれる意味を、簡単には信じられませんでした。深呼吸をして、もう一度読みながら、ゆっくりと、反転した世界に生まれなおしました。それ以来ずっと僕は、道尾さんのファンです。
「サピエンス前戯」 木下古栗著
選者:木下龍也
古栗さんの著作はすべて大好きですが、友人に「これ絶対読んで!」とすすめるにはなかなか勇気が必要なので、三省堂書店神保町本店にお越しのみなさまへおすすめします。
「遠慮深いうたた寝」 小川洋子著
選者:木下龍也
何かを書いている人は「答えのない問い」という項の最後の6行に、今ここで撃たれるといい。
「広告コピ-ってこう書くんだ!読本」 谷山雅計著
選者:木下龍也
僕にコピーを、いや、書くということについて熱く教えてくださったのが谷山さんでした。問題を見つけ、それを解決するために悩む。悩み続ける。ひとつの課題をたくさんの視点から、たくさんの言葉にする。その姿勢は短歌を書いている今でも、とても役に立っています。