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著名人選書フェア その6

読書は選ぶところから始まっています。
読みのプロでもある著作家の豊かな選書をお楽しみください。
本フェアは2022年5月8日まで神保町本店1階で開催しております。
神保町本店は2022年5月8日で一時閉店いたしますが
これからも、本というバトンをつなぎ続けます!
(選者の方は順不同で敬称は省略させて頂いております。)

「再婚生活」 山本文緒著

選者:島本理生
理解できない世界に向き合う本

病気を患っているときに、他人から同情されないことを書くのは、とても勇気がいることだ。人がバランスを崩すのは決して不幸な状況だけではないことを、私はこの本から綺麗ごとではなく学んだ。

「聖なるズー」 濱野ちひろ著

選者:島本理生
理解できない世界に向き合う本

本書は多角的なアプローチと真摯な考察に加えて、ときに正直な感情も織り交ぜながら、研究対象への深い理解を実現している。本当の意味で、知る、とは、どういうことなのかを、私は動物性愛という本書のテーマを通して教えられた。

「消滅世界」 村田沙耶香著

選者:島本理生
理解できない世界に向き合う本

自分が間違っているのか。世界が間違っているのか。世界が間違っていると思い込んでいる人たちが間違っているのか。そんな思考がぐるぐると回る。強烈に頭の中をひっくり返される一冊。

「パリ左岸のピアノ工房」 T.E.カ-ハ-ト著

選者:須賀しのぶ
こういうお店と出会いたいなー!な本

アメリカ人の著者が、パリ左岸の謎多きピアノ工房と出会い、始まる物語。ピアノのさまざまな知識とピアノへの愛、工房にまつわる人々。こういう秘密の場所をもてる人生って素敵。フランス人あるあるも面白い。

「リヒトホーフェン-撃墜王とその一族」 森貴史著

選者:須賀しのぶ
歴史ってほんと面白すぎる

超有名な撃墜王レッドバロンとその弟、その遠縁の同名姉妹。男と女、厳格と奔放、短命と長命。同じ世代、何もかも対照的な彼らの生き様と、浮かび上がる時代が面白すぎるんですよ。よくぞ組み合わせてくださった!

「コルシア書店の仲間たち」 須賀敦子著

選者:須賀しのぶ
ひとりで静かに回復したい時に読む本

戦後のミラノ、理想の共同体として存在してしたコルシア書店。青春の日々、訪れる別れ。人生を的確に描く文章は流れる水のごとくやわらかいのに強靭で、辛いとき読むと心が凪ぎ、何度も救われました。

「背教者ユリアヌス 1」 辻邦生著

選者:須賀しのぶ
青春キャラ小説の傑作として熱弁したい小説

重厚な歴史小説であると同時に切ない青春小説です。世界に馴染めぬ自分を自覚しながら、必死に理想の世界を実現しようとあがくユリアヌスの姿は、「普通」が難しい人にはとくに刺さるかと。語りたい…。

「背教者ユリアヌス 2」 辻邦生著

選者:須賀しのぶ
青春キャラ小説の傑作として熱弁したい小説

重厚な歴史小説であると同時に切ない青春小説です。世界に馴染めぬ自分を自覚しながら、必死に理想の世界を実現しようとあがくユリアヌスの姿は、「普通」が難しい人にはとくに刺さるかと。語りたい…。

「背教者ユリアヌス 3」 辻邦生著

選者:須賀しのぶ
青春キャラ小説の傑作として熱弁したい小説

重厚な歴史小説であると同時に切ない青春小説です。世界に馴染めぬ自分を自覚しながら、必死に理想の世界を実現しようとあがくユリアヌスの姿は、「普通」が難しい人にはとくに刺さるかと。語りたい…。

「背教者ユリアヌス 4」 辻邦生著

選者:須賀しのぶ
青春キャラ小説の傑作として熱弁したい小説

重厚な歴史小説であると同時に切ない青春小説です。世界に馴染めぬ自分を自覚しながら、必死に理想の世界を実現しようとあがくユリアヌスの姿は、「普通」が難しい人にはとくに刺さるかと。語りたい…。

「まぜるな危険」 高野史緒著

選者:須賀しのぶ
最近読んで大興奮した小説

こんな凄いの高野文緖さんしか書けない。ロシア文学とSF、それ以外。まぜたら危険なやつを、最高の知性と感性と技術をもってまぜちゃったら、とてつもないものができちゃった! 天才です。元ネタわからなくても面白いし絶対に読みたくなる。

「シェイクスピア全集 7 リチャード三世」 ウィリアム・シェイクスピア著

選者:菅野文

シェイクスピアを初めて読むなら松岡和子さん訳がいちばん読みやすいと思います。内容的には「リチャード三世」は「ヘンリー六世」の続編なので、「ヘンリー六世」もぜひ! リチャードだけ追うなら第三部後半からで大丈夫です

「中世ヨ-ロッパの城の生活」 ジョゼフ・ギ-ス フランシス・ギ-ス著

選者:菅野文
中世のお城の暮らしがリアルに想像できてわくわくします。歴史小話もたくさんあって楽しい!(J.ギースの本では15世紀イングランドに実在したパストン家の書簡を紹介する「中世ヨーロッパの家族」もおすすめなので見かけたらぜひ!)

「中世ヨ-ロッパの家族」 ジョゼフ・ギ-ス フランシス・ギ-ス著

選者:菅野文
中世のお城の暮らしがリアルに想像できてわくわくします。歴史小話もたくさんあって楽しい!(J.ギースの本では15世紀イングランドに実在したパストン家の書簡を紹介する「中世ヨーロッパの家族」もおすすめなので見かけたらぜひ!)

「薔薇戦争」 陶山昇平著

選者:菅野文

薔薇戦争を知るのに最適です!詳細まで網羅されていながらコンパクトでわかりやすい!

「タタ-ル人の砂漠」 ディ-ノ・ブッツァ-ティ著

選者:砂川文次
時間の残酷

私たちはいつでも何かを待っている。その何かが明日やってくるのか、一年後か十年後かはわからないけれど、待っている。本当は、その何かがこちらを待ち構えていることを知っているのに。そんな何かをめぐる物語。

「バスがきた」 五味太郎著

選者:砂川文次
時間の優しさ

かつて私が子供だった頃に読み、それから、自分の子供に読み聞かせ、しかし気付くと子供が一人で読んでいる。そして今また、この本を時々一人で読んでいる。本の中と外の時間の流れを考えずにはいられない、物語なき物語。

「象徴交換と死」 ジャン・ボ-ドリヤ-ル著

選者:砂川文次
名著かつ奇書

名著は時代によって読み方が変わっても読み継がれる。けれども本書は時間によって洗われない妥当性を持つ。読んでいる側が書かれたことばに従ってしまうのか、はたまたその逆か。

「愛と幻想のファシズム 上」 村上龍著

選者:砂川文次
夢のような暴力と絶望的な安定

読み終えてもなお読み終えることができない本をテーマに、5冊選んだ。1冊目は、衰退するかつての経済大国ニッポンを舞台に、それを取り巻く巨大なシステムと戦う男の物語だ。生命の輪郭が死によって浮かび上がり、快楽になる。男は、快楽でシステムを撃とうとする。

「愛と幻想のファシズム 下」 村上龍著

選者:砂川文次
夢のような暴力と絶望的な安定

読み終えてもなお読み終えることができない本をテーマに、5冊選んだ。1冊目は、衰退するかつての経済大国ニッポンを舞台に、それを取り巻く巨大なシステムと戦う男の物語だ。生命の輪郭が死によって浮かび上がり、快楽になる。男は、快楽でシステムを撃とうとする。

「白鯨 上」 ハ-マン・メルヴィル著

選者:砂川文次
待ちに待った破壊

極東の島国の沖合へ捕鯨船は進む。幻の白い鯨を捕るために。が、その道のりは多難で、主人公イシュメールの饒舌や冗長とも思える地の文や鯨学や思弁等々が我々の前に立ちはだかる。白鯨の圧倒的破壊力には、快楽すら覚えてしまう。

「白鯨 下」 ハ-マン・メルヴィル著

選者:砂川文次
待ちに待った破壊

極東の島国の沖合へ捕鯨船は進む。幻の白い鯨を捕るために。が、その道のりは多難で、主人公イシュメールの饒舌や冗長とも思える地の文や鯨学や思弁等々が我々の前に立ちはだかる。白鯨の圧倒的破壊力には、快楽すら覚えてしまう。

「からすのおかしやさん」 かこさとし著

選者:瀬尾まいこ
続きを知れてうれしくなった本

子どものころよく読んでいた「カラスのパン屋さん」。自分が親になってわが子に絵本を読むことで、あのカラスの子どもたちがそれぞれ飲食店を営んでいたことを知って、うれしくなりました。そばやさんに、おかしやさんに、てんぷらやさんに、やおやさん。それぞれ家族を持ってお店を切り盛りしている姿がほほえましいです。

「さぶ」 山本周五郎著

選者:瀬尾まいこ
卒論の本

この小説で大学の卒論を書きました。仰々しくテーマを掲げず、町の人たちのさりげない生活を書く山本周五郎さんの作品を、学生のころよく読んでいました。私も小難しいことを言わず(賢くないのでそもそも難しいことなど言えないのですが)、さりげない物語を描けたらいいなと思います。

「奈良本」

選者:瀬尾まいこ
おしゃれな奈良の本

私は奈良在住ですが、京都と同じくらい観光できる場所があるのに、どうしてぱっとしないのかが謎です。「奈良にうまいものなし」と言われたり、古臭いイメージを持たれたりしがちな気がするのですが、この本はおしゃれな奈良や、今時の新しいお店もたくさん載っているので、手に取っていただきたいです。

「うどんのう-やん」 岡田よしたか著

選者:瀬尾まいこ
関西弁を発揮できる本

この本を読むと、子どもだけでなく関西生まれではない夫も喜びます。響きが楽しいようで、私の関西弁に「ほんものや!」と絶賛してもらえます。みんなが嬉々とするので、はりきって夫と子どもに読み聞かせています。最初の1冊は出版社の方にいただいたのですが、あまりに楽しい話に、シリーズでそろえています。

「菜根譚」 洪応明著

選者:髙田郁
決して古びない人生の指南書

明の時代に洪自誠(洪応明)により記された、いわば人生の指南書です。文政5年(1822年)に和訳本が刊行されて以後、中国よりもむしろ日本で愛され続けています。実は、拙著「あきない世傳 金と銀」シリーズで主人公たちを支え続けるのも、この中の一節でした。今を生きる我々にとっても、頼りになる一冊です。

「路傍の石」 山本有三著

選者:髙田郁
学ぶことは生きること

小学生の頃に出会った小説で、未だに飽きることなく読み返しています。子どもの頃は、本編のあとに書かれた「ペンを折る」「あとがき」が充分には理解できませんでした。今こそ、お読み頂きたい作品です。作中、洋菓子の「ワップル」なるものが登場する場面で、毎回、ヨダレが出てしまうことは内緒、内緒。

「最後の角川春樹」 伊藤彰彦著

選者:髙田郁
インタビューはこうでないと

取材対象者について徹底的に調べ、信頼関係を築き上げ、じっくりと話を聞きだして丁寧にまとめた一冊。安心して読めますし、引き込まれます。今はネットでざっと調べたものや、検証しないまま発信されるものが増えているせいでしょうか、こういう丹念な仕事ぶりを目にすると、すっと背筋が伸びます。

「アウシュヴィッツの巻物証言資料」 ニコラス・チェア ドミニク・ウィリアムズ著

選者:髙田郁
永く記憶に留めたい史実

アウシュヴィッツ収容所の火葬場の地中深くに埋められていた、記録の数々。ゾンダー・コマンド(ユダヤ人の囚人の中から選別された者たちによる特別作業班)の手で密かに遺されたものが、戦後、数十年にわたって発掘されました。きなくさい時代だからこそ、戦争の酷さと愚かさを直視し、それを後世に伝えねば、と改めて思います。

「チグリジアの雨」 小林由香著

選者:髙田郁
応援したい小説

題名のチグリジアは花の名前です。その花言葉は「私を助けて」。いじめを巡る小説で、切ない展開ながらも、行く手に光が見える作品です。いじめ問題を自分のこととして受け止めて、誰もが「助けて」と声をあげることのできる社会になるように──そんな著者の思いを、心から応援したい小説です。

「自転車泥棒」 呉明益著

選者:高山羽根子
大切な小説

人生の中で、こんな小説が一回でも書けたらなあ、と思うような作品に出合うことは幸せな出来事です。戦時中の歴史、盗まれた自転車と家族、銀輪舞台と少年工、蝶の羽で描かれた工芸画、写真、すべてのディテールがきらきらしている奇跡みたいな一冊です。

「乙女の密告」 赤染晶子著

選者:高山羽根子
書き始めたいと思ったころの一冊

小説を書き始めようと思ったのが30歳代の中盤で、その頃に話題になった、同じ世代の同じ女性の小説を読んでみよう、とふと考えて手に取ったのだと思います。軽やかな知性と、そこから飛翔する想像が、衝撃的でした。

「ほんのこども」 町屋良平著

選者:高山羽根子
自分の物語が世界に接続する一冊

「乙女の密告」との接続で、世界の悲劇に接続する私小説、という意味であげました。世界と自分はこんなにスリリングに接続するんだ、という驚きと共にあっという間に読み進んでしまいます。恐ろしい、とても恐ろしい一冊。

「田紳有楽/空気」 藤枝静男著

選者:高山羽根子
「肌」の一冊

「ほんのこども」との接続で、肌感覚、炎症の切なさやもの狂おしさに、ちょっとしたおかしみと驚異があります。短編といっていいと思いますが、庭の池から世界のどこまでも繋がっていくダイナミズムに溢れる一冊です。

「知られざる皇室外交」 西川恵著

選者:ちきりん

女系天皇は有り? それとも無し? すべての日本人が意見をもつべき重要課題の背景を理解するための必読書!

「それをお金で買いますか」 マイケル・J.サンデル著

選者:ちきりん

新しい資本主義」ってなに? どんな資本主義を目指すべきなのか、本書を読んで、あなたの意見を考えよう!

「自分の頭で考える日本の論点」 出口治明著

選者:ちきりん

意見を明確にするための練習に最適! 本書内22個の論点のうち、あなたはいくつ「自分の意見」が言えますか?

「荒野へ」 ジョン・クラカワ-著

選者:都築響一

好きで出るのが旅行で、出ないとどうしようもないのが放浪だ――という勝手な定義からすれば、放浪とはつねに負け戦であり、負けるとわかっていながら出ていってしまうのが放浪者だ。悲しいほどにナイーブな若者が、スキルもないのにアメリカの辺境をさまよったあげくアラスカの奥地に入り込み、当然の帰結として死んでしまう実話。アラスカに行ったとき、主人公が姿を消した場所が見たくて、近くの町まで行ったのだが、アウトドアのプロたちはみんな彼のことをバカにしきっていた。そういうプロたちは生きのびるのに大切なスキルをたっぷり持っているけれど、生きのびることよりもっと大切ななにかは、なにも持っていない。

「日本の放浪芸」 小沢昭一著

選者:都築響一

小沢さんは芸人であり、文筆家であり、在野の民俗学者であり、同時に好奇心とスケベゴコロに満ちた昭和写真を撮り続けたひとだった。庶民の日常を眺める視線の優しさと、消えゆく、あるいは不当に貶められてきた芸の本分への真摯な視線という、二種類の視覚を併せ持った小沢昭一ならではの「世界の眺めかた」。そのモチベーションには、消えゆく民俗文化財への学究的な興味もあったろう。「いま残しておかないと!」という止むに止まれぬ焦燥感もあったろう。でも、そういうすべての動機の根底には、「こんなにおもしろいのに!」という純粋な興奮があったはずだ。小沢さんが掬い取った昭和のカケラは甘美なノスタルジアに僕らを誘ってくれるけれど、これが小沢さんにとっての「失われゆく昭和」だったとすれば、いまを生きる僕らにとってこれは「とっくに失われてしまった昭和」だ。だからこの本はノスタルジアに遊ばせてくれながら同時に、「じゃあお前がいま記録すべきはなんなのだ」「お前がいるべき場所はどこなのだ」という、厳しい問いを突きつけられているように思われてならない。

「ナショナル・スト-リ-・プロジェクト 1」 ポ-ル・オ-スタ-著

選者:都築響一

日本のアンソロジーにありがちな「ちょっといい話」ばかりが、ここに収められているわけではない。悲しい話もあれば、恐ろしい事件もあり、不思議なエピソードも、怒りに震えるできごともある。書き手はすべて文章のアマチュアだが、その飾らない話法がナマの感覚を、より正確に伝えてくれる。ページを繰りながら何度感極まったかわからないけれど、この感動のしかたというのは最高の書き手による最高の文章に巡りあった時の陶酔ではなくて、たまたま酒場で隣りあったオヤジが話しかけてきて、うるさいなあと思いながら相づちを打っているうちに、話のあまりのおもしろさに引き込まれてビールを奢りあった、みたいな興奮だ。

「ナショナル・スト-リ-・プロジェクト 2」 ポ-ル・オ-スタ-著

選者:都築響一

日本のアンソロジーにありがちな「ちょっといい話」ばかりが、ここに収められているわけではない。悲しい話もあれば、恐ろしい事件もあり、不思議なエピソードも、怒りに震えるできごともある。書き手はすべて文章のアマチュアだが、その飾らない話法がナマの感覚を、より正確に伝えてくれる。ページを繰りながら何度感極まったかわからないけれど、この感動のしかたというのは最高の書き手による最高の文章に巡りあった時の陶酔ではなくて、たまたま酒場で隣りあったオヤジが話しかけてきて、うるさいなあと思いながら相づちを打っているうちに、話のあまりのおもしろさに引き込まれてビールを奢りあった、みたいな興奮だ。

「あいたくてききたくて旅にでる」 小野和子著

選者:都築響一

およそ50年間にわたって山村や海辺の町をめぐって聞き集めた民話を読者に語ってくれる本。民話採集というと柳田国男、宮本常一といった大家がすぐ浮かぶが、小野和子さんがすごいと思うのは、自信がないところ。専門の研究者ではなくて、ただの主婦。家事と3人の子育てに忙殺されながらむりやり時間を作っての採集行なので、全国あちこちどころか地元宮城県のあちこちぐらいしか行けない。しかもクルマではなく電車やバスを乗り継いで、あとは徒歩で田舎道をひたすら歩き、目についた民家でいきなり「昔話、聞かせてもらえませんか」と初対面で頼み込み、たいてい驚かれたり困惑されたりする。そんなふうに歩きながら自分の未熟や無鉄砲を呪い、「わたしはこんなところでなにしてるんだろう」と悩んだりする。揺れ動くこころをつねに抱えながら、それでも出会いの感動を忘れることができなくて、小野さんは半世紀も歩いてきたのだった。上からではなく、その「下から目線」こそが、学者の研究書とはまったく別物の、こんなに優しくパーソナルな記録を生んだのだろう。彼女が民話研究という学問分野の端っこにいるとすれば、昔話を聞かせてくれる老人たちもまた、村なり町なりの端っこにいる存在だ。真っ昼間に仕事もせずに、座敷や縁側でお茶飲んでるだけの老人たち。そういう「中心から外れて生きている人間」どうしが偶然出会い、物語を介してこころを通じあえることの奇跡を思わずにいられない。

「忘れられた日本人」 宮本常一著

選者:都築響一

世の中でいちばん憧れる放浪者は土佐源氏の、どうしようもない盲目の馬喰(ばくろう)だ。こんなふうにだらしなく、こんなふうに優しく流れるままに生きて、最後にはどこかの橋の下でボロボロになって死ねたら、どんなにすてきだろう。そんなふうに生きられないなら、せめてこんなに美しい物語を、死ぬまでにひとつでいいから書いてみたいというのが、いままで話したことはないけれど、僕のいちばんの願いだ。

「笑う警官 刑事マルティン・ベック」 マイ・シェ-ヴァル ペ-ル・ヴァ-ル-著(絶版)

選者:堂場瞬一
今でも印象に残っている本

警察小説の一つのスタンダード。北欧に興味を向けさせてくれた一冊でもある、今でも年に一回は読み返す作品。

「湿地」 ア-ナルデュル・インドリダソン著

選者:堂場瞬一

今でも印象に残っている本
意外な国から登場した、斬新なミステリ。世界にはまだ知らない国、知らないことがたくさんあると思い知らせてくれた。

「パリは燃えているか? 上」 ラリー・コリンズ ドミニック・ラピエール著

選者:堂場瞬一
大切な本

ノンフィクションの枠を超えて、大河ドラマのように楽しめる傑作。おびただしい登場人物が活写されている。

「パリは燃えているか?下」 ラリー・コリンズ ドミニック・ラピエール著

選者:堂場瞬一
大切な本

ノンフィクションの枠を超えて、大河ドラマのように楽しめる傑作。おびただしい登場人物が活写されている。

「さむけ」 ロス・マクドナルド著

選者:堂場瞬一
大切な本

ハードボイルド御三家の中では「地味」と言われるロス・マクだが、深い文学性はいつの時代でも通用するスタンダードなもの。本書は脂の乗り切った中期の代表作。

「マルタの鷹」 ダシ-ル・ハメット著

選者:堂場瞬一
今でも印象に残っている本

今読むと、ハードボイルドというよりノワール。100年近く前の作品だが、読む度に新たな発見がある。さすが、革新の一冊だ。